家が回転する前の最初の話
                                         永岡大輔

僕の故郷は山形市である。
しかし、18歳でこの街を出てから、様々な土地で暮らす生活を続けている。そんな中、2018年4月11日、山形にいる父が他界した。3年前の大きな手術の後、体力の回復を図りながらの生活だったが、父の努力は叶わず病院で息を引き取った。僕にとってその日はしばらく住んだ東京の家を引き払い、横浜に越した日。丁度、引越しが終わり母と電話で話している時に、父が危篤である知らせを受け、電車に飛び乗った。最終列車には間に合ったが、実家で旅立った後の父との再会は、大きな喪失感以外よく思い出せない。

数週間が経ち、様々な法務上の手続きに追い立てられる日がやって来た。幸い役所が近いので、一人でいたくないと言う母と一緒に何度も通った。父の全戸籍の書類が必要だったが、出生の記録だけは真室川町役場にあるため、郵送での手続きが必要とのこと。そう言えば、昭和19年に生まれた父は、及位という山形県と秋田県の県境にある集落に祖父母が疎開中生まれたことを思い出す。市役所の人によると、町役場に電話をすれば対応してくれるとのことだったが、母に真室川役場へ直接行くことを提案して見た。何か別の形で父親に会える気がしたからだ。大きな悲しみの中を漂ようだけの母と僕にとって、それは必要な時間のように思えた。

翌朝8時頃、母と出発した。国道13号線をひたすら北上する。行く先々で、母は父親と一緒に旅した思い出を話してくれる。通過するどの町にも父との記憶があるのだ。僕と一緒にいるのに、母はまるで父と一緒にいるかのように話をする。父の名前を呼び、話しかける。快晴の空とは対象的に車の中はやたら湿っぽく、亡き父が 同乗しているような不思議な感覚もある。

思ったより真室川役場には早く着いた。書類も15分もかからずにもらうことができた。あまりにも簡単に済んでしまい、二人とも少し拍子抜けしてしまう。こんな時の拍子抜けは、案外精神的余裕を生むもんだ。母に、さらに足をのばして父の生まれた町を見に行こうと尋ねてみる。母の顔が明るくなる。生前、父とは一度も彼の生まれた町に行くことがなかった母にとって、彼女の知らない父に会えると感じたのかもしれない。

真室川からは車で1時間ほどで及位に到着する。山道を降りると急に現れる小さな集落だ。水田が広がり、町を冷たい川が流れている。ゆっくりと車を走らせながら、母と二人で生まれたばかりの父が過ごした景色に心を浸してみる。細い川の辺りに1軒の商店を見つける。知人がいるわけでもないし、折角だから寄ってみようと話す。なんでも山で採れた蕗や葡萄を収穫、加工してお店を営んでいるとお店の奥さんは教えてくれた。買い物好きの母はすっかり夢中になり、あれこれ聞きながら、両手に蕗の缶詰を抱えている。こんな僕らが不思議に思えたらしく、なぜこんなところに来たのかと尋ねる。この町にはわざわざ外から人がやって来るだけの理由は、さほどないと言うことらしい。父がこの4月に他界したこと、そしてその父の出生地が及位で、この町を見に来たことを話した。それを聞くと、すぐさまお店の奥さんは旦那さんを呼び、彼にその話をし始める。彼は驚いたように、頷きながら、父の生家の住所がわかるかと聞く。幸い、戸籍を役場でもらったばかりだ。すると、そこに書かれた住所は、このお店の真裏に当たることがわかる。ただ、祖父母が暮らし父の生まれた家は数年前まではあったのだが、その後取り壊しになったらしい。今はもう空き地になっている。そんな話をしていると、僕が子供の頃、祖父母に疎開中の生活について話してもらったことを思い出す。家の裏側には山があって、山菜だのキノコだのが採れ、すぐ近くの川では魚が採れたと。きっとたまに祖母が作ってくれたこの地域でよく食べられる伝統菓子の笹巻きは、疎開中に誰かに教えてもらったのかもしれない。初めて訪れた土地に、ただいまと言いたくなる感情。ここだったのか。すると俄かに、今日会ったばかりの商店の二人が、よく知るご 近所さんのように思えてくる。

お店の裏手の家の跡を見てみる。大きな杉の木が5本生えている。父が生まれた頃に植樹されたようだ。それ以外は、屋根瓦が少し落ちていたり、柱の跡がある程度で、ほとんど何もない。ただ、ここにかつて祖父母と父 が暮らしていた。その事実だけが僕たちを引き留める強い力を持っている。 母と二人でスマホで写真を取り合った。きっとなんでもない景色なんだろうが、僕たちには充分すぎるほど特別な景色であり土地だ。帰り際、お店の夫婦が、またおいでと言ってくれた。

人が去った後は、多くのものが失われる。記憶も物質も、全ては宇宙の大きな流れには逆らえない。しかし、それでも、残るものが少しだけある。それは、どんなに忘れられていようと、どんなに形を変えていようと残っていて、ずっと待ち続けている。球体の家の場合、それは家が回転して大地に描く線だ。山形で最初の球体の家をつくるにあたって、僕はとても大切なことを祖父母と両親から受け取ることができた。偶然にも彼らの家の痕跡をこうして確かめることができたのだから。まるで、球体の家が通った後のように。
またここに来ようと思う。

 

 

 

 

 

2018. 9. 1〜9. 24 

球体の家プロジェクト『最初の家』

 

井口和泉(料理研究家)

熊谷幸治(土器作家) 

山崎大造(竹作家)

玉手りか(テキスタイル作家)

 

 

 

 photo by 三浦晴子

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2018. 7. 20(金)17:30~19:20 

TAC TALK『竹かご、衣服と球体の家』

東北芸術工科大学 大学院アトリエ棟1階102

熊谷幸治、永岡大輔 

 

 

「東北アートセンター(Tohoku Art Center)」企画として、山形ビエンナーレの大学敷地内でのプロジェクト『球体の家』メンバーの美術家、永岡大輔さんと竹作家・山崎大造さん、テキスタイル作家・玉手りかさんによるクロストークイベント「TAC TALK(タックトーク)」を開催いたします。

 

 photo by 三浦晴子

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2018. 7. 16(月)17:30~19:20 

TAC TALK『土器と最初の家とものの時間』

東北芸術工科大学 大学院アトリエ棟1階102

熊谷幸治、永岡大輔 

 

 

「東北アートセンター(Tohoku Art Center)」企画として、山形ビエンナーレの大学敷地内でのプロジェクト『球体の家』メンバーの美術家、永岡大輔さんと土器作家、熊谷幸治さんによるクロストークイベント「TAC TALK(タックトーク)」を開催いたします。

 

 photo by 三浦晴子

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2018. 6. 22(金)17:30~19:00 

TAC TALK『食と器と球体の家』

東北芸術工科大学 大学院アトリエ棟1階102

井口和泉、永岡大輔 

 

 

「東北アートセンター(Tohoku Art Center)」企画として、山形ビエンナーレの大学敷地内でのプロジェクト『球体の家』メンバーの美術家、永岡大輔さんと料理研究家、井口和泉さんによるクロストークイベント「TAC TALK(タックトーク)」を開催いたします。
今回はこれまで井口さんが全国各地で探究されて来た食を切り口に、我々の身体、そして食と身体をつなぐ器、そして今回のプロジェクト『球体の家』のテーマである「最初の家」とあわせてお話していきます。
食の在り方を身体との関係で模索する井口さんのお話は、これまでの食の概念を一転させるほど驚きに満ちています。また、現在進行中のリサーチの成果も少しお見せできると思います。
プロジェクトへの参加者も募集するので、皆様でお誘いあわせの上、奮ってご参加ください。

 

【井口和泉】
料理研究家。福岡、東京、フランスで菓子と料理を学ぶ。四季おりおり、3.5.7日間の発酵を楽しむ教室を全国でしています。発酵は「いきもの」と付き合う近代以前の食材の保存方。「あたりまえ」と思っていたことが簡単にひっくり返る面白さがあります。稲作以前のからだを体験する五穀塩断ちを経て、いま一番興味があるのは不食です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2018. 5. 28(月)17:30~19:00 

TAC TALK『最初の家VSヤタイ祭り』

東北芸術工科大学 大学院アトリエ棟1階102

永岡大輔、市川寛也、三瀬夏之介

 

 

「東北アートセンター(Tohoku Art Center)」企画として、総合美術コースの市川寛也先生と美術家、永岡大輔氏によるクロストークイベント「TAC TALK タックトーク」を開催いたします。

お二人は9月に開催される山形ビエンナーレにおいて大学敷地内でのプロジェクトを開始しています。市川先生による「山のようなヤタイ祭り」は、ワークショップを通して屋台を作成します。ビエンナーレ期間中の滞留拠点としてプロジェクトスペースとなる空間を創出し、屋台の運営も市民や学生たちが行います。
永岡氏による「最初の家」は土器作家や料理研究家、竹工芸作家などとの協働により球体型の家を実現するプロジェクトです。縄文時代を切り口に「もし当時の人類が球体の家に住み始めたら」という仮定のもと新たな世界のあり方を模索します。

今回はその活動レクチャーから、地域と芸術のつながりまで山形ビエンナーレについて一緒に考えてみる機会となります。プロジェクトへの参加者も募集するので、皆様でお誘いあわせの上、奮ってご参加ください。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2018. 6. 19〜6. 28 

球体の家プロジェクト『最初の家』

食:発酵(調理と保存の技術)

井口和泉(料理研究家)

 

 

『最初の家』において、食のリサーチを実施。

下記の2つがリサーチ内容のポイント

1:プロジェクト実施地である山形の食材(在来野菜や山菜、野草)をたずねる

2:調理方法及び保存技術である発酵について学ぶ

※リサーチ中、ワークショップをしながら講師井口さんの発酵の知見をオープンにしつつ、リサーチ内容の共有・深化をはかった。

 

訪問地:佐藤商店(及位)、工房ストロー(真室川町)、阿部糀屋(東根市)、男山酒造(山形市)、ハーブ研究所スパール(鶴岡市)、山形市岩波周辺の山野

 

 

 

 

 

 

 

 

2018. 1. 13〜2. 4 

THE SPHERE HOUSE and BOOKS

 

 

『球体の家と本』
もし家の概念が箱型から球型へ変化したとしたら、
我々の生活はどうなるだろう?
今までに土地に縛られていた家が、
住む人の生活と共に転がり移動しはじめたら
一体何が起きるだろうか?
そしてその時の本の姿は?

 

 

 

 

 

2017. 5. 25〜6.7 

THE SPHERE HOUSE

Solo Show

 

 

 

2017. 3. 3〜5 TURN fes 2

Kodomo Conference

talking about the sphere house

 

 

 

2017. 2. 17〜19 Talk & Open studio

venue: Torar Nand, Osaka

Gest: Kyoji Chisaka(political thinker)